鍵屋の熱燗器、締めのささのや
Kさんと、おせんを出た。
行先は不思議と同じ考えで、迷いもなく鍵屋をめざしていた。
ひっきりなしに、緑の電車と青の電車、ときどきオレンジの混じった電車が行きかう弧線橋を渡り、
ちょっと怪しい雰囲気の街を通り抜ける。
メイン通りからちょっと入った住宅街の中に、その店はある。
これまでも紹介したと思うが、この店の初代の建物は、いまは江戸東京たてもの園に移築してあるのだ。
カウンタに2人だけ入れた。カウンターはすべてカップルだ。といっても、ぼくよりは年上。
座敷はサラリーマンの団体が2組飲んでいる。
昭和の場末の酒場というより、おしゃれなレトロ酒場の雰囲気だ。女性はなぜか上品な顔立ちである。
ここのマスターはいかにも絵になる人だが、この店の中の写真はとったことがない。
ここでは基本は熱燗だ。銅製のガス熱燗器なるものがあり、ことことと温めてくれる。
きょうは少し暑いので、ゆるめでお願いした。
そしてもつ鍋を頼む。
すると、出てきたお銚子は、めちゃくちゃ熱い。次ぐのに、ティッシュをあててやっとである。
ああ、制御が効かない熱燗器なのだろう。
しかし、おちょこから、飲んだお酒は、なんと人肌なのである。
Kさんと、顔を見合せてびっくり、これは職人技だ。
勢いでお銚子に乗って、6本くらいは飲んだだろうか。
21時過ぎになり、客が引いていく。
きょうはお願いしてみよう。銅製の熱燗器の写真。
この話はマスターから聞いた。これを作れる人はもう日本に一人しかいない。
だから、もし壊れたときのことを考えて、あの棚の上に、もう一台あるんだ。
家宝の撮影に大変満足して、お店を出た。
Kさんが、いつも、ささのやの人に圧倒されて、立ち寄ったことがないという。
普通なら、ささのやで、焼き鳥を入れてから、鍵屋が定番であるが、
きょうはめずらしく、逆手である。ささのやで締めといこう。
一番煙のたつ正面に二人で陣取り、どんどん焼きあがるたれのついた焼き鳥をとうがらしの皿へころがし、二度付け禁止だよといいながら、ビールを一杯飲んで、ささのやでの締めとした。
夜の課会で、趣味は、下町酒場巡礼と宣言し、プレゼン資料まで作った翌日は、
趣味の王道、真髄、本性というべき、酒場めぐりとなったのである。
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